★連結財務諸表における税効果

■個別決算から連結決算へ

従来日本の会計制度は、個別財務諸表を中心としてきました。実際の企業活動は、親会社を中心とする企業グループによって行われています。このような企業活動の実態を反映させるために、昭和52年4月から連結財務諸表制度が導入されました。これによって、個別財務諸表では把握できなかった企業グループの活動状況が数値化されたのですが、会計の国際化の要請により連結中心の財務諸表になろうとしています。平成10年4月1日以降開始事業年度から段階的に、主として次のような改正点が導入され、まさに連結中心の会計制度に変わることになります。

・有価証券報告書の記載順序が「連結財務諸表」が最初に、「個別財務諸表」は、次に。
  (従来と順序が逆・・単独決算数値は補足情報として捉える)
・連結ベースでのキャッシュフロー計算書の導入
・連結および持分法適用の範囲が、「持株基準」から「支配力基準」および「影響力基準」に転換
・税効果会計の全面適用
・中間連結財務諸表の導入
・資本連結手続の明確化
・オフバランス情報、リスク情報を連結ベースで開示
・臨時報告書は、連結ベースで開示
・連結財務諸表を作成しない場合でも、持分法による投資損益を個別財務諸表の注記事項とする

■連結決算の考え方

連結決算の仕組みの解説は、他の図書に譲るとして、基本的な考え方を説明しましょう。
連結決算とは、親会社を中心とする企業グループに属する各個別の企業の財務諸表を合算した上で、グループ内の取引を相殺消去して、グループ全体の状況を把握する手続きです。グループとしての財務諸表を作成するわけですから単純に合算してもダメなわけです。グループ内の取引には、親会社の子会社への投資、グループ企業内での取引高、その取引に基づく債権債務残高及び在庫や固定資産となっているものの未実現利益などがあり、これらを相殺消去しないとダブってしまいその分だけ水脹れとなった決算書となってしまうのです。

■連結決算の考え方

連結決算の仕組みの解説は、他の図書に譲るとして、基本的な考え方を説明しましょう。
連結決算とは、親会社を中心とする企業グループに属する各個別の企業の財務諸表を合算した上で、グループ内の取引を相殺消去して、グループ全体の状況を把握する手続きです。グループとしての財務諸表を作成するわけですから単純に合算してもダメなわけです。グループ内の取引には、親会社の子会社への投資、グループ企業内での取引高、その取引に基づく債権債務残高及び在庫や固定資産となっているものの未実現利益などがあり、これらを相殺消去しないとダブってしまいその分だけ水脹れとなった決算書となってしまうのです。

■連結決算の手順

税効果会計を適用した連結財務諸表の作成にあたっては、まず連結グループ構成会社の個別財務諸表上で税効果を捉え、次に連結手続に伴う税効果を認識するという手順を踏むことになります。

●子会社についての準備

海外の連結子会社の場合、所在国の会計基準に税効果会計の規定が存在する場合には、監査済み決算書の段階で税効果会計が適用されている可能性が高いといえますが、税効果会計に関する会計方針や注記の内容を吟味しておく必要があるでしょう。
税効果会計が適用されていない連結子会社については、適用の必要性の有無を判断する必要があります。必要性を認めた場合には、税効果を認識した後の修正財務諸表を作成しこれを基に連結手続に入ります。
そのため、連結子会社側では、個別財務諸表項目にどのような一時差異等が存在するかを整理しておくことになります。税効果の適用にあたっては、親会社と同一の基準によることが必要となります。

●持分法適用会社と税効果

持分法の適用に対しても、連結子会社と同様に税効果を認識する必要があります。持分法の適用上生じた未実現損益の消去及び投資に係る一時差異について税効果会計を適用するわけです。したがって、持分法適用会社からも、適切な情報を受け取ることのできる協力体制が必要です。企業集団内部における持分法適用会社の位置付けを明確にして、協力体制を作り上げることが急務となるでしょう。
適切な連結財務諸表の作成のためには、持分法適用会社を含めて企業グループ内部の各企業が、どのような情報を収集し、何をすべきかを明確にして、十分な事前準備を行う必要があります。

■連結決算での税効果が必要な理由

このように、連結財務諸表を作成する最初のステップは、個別財務諸表を合算することですが、これらの財務諸表は、個別での税効果会計を適用したものが合算されるということに注意しなくてはなりません。したがって、単純に合算された段階では、会計上の利益と税金とのバランスがとれたものとなっています。しかし、連結手続を行うことによって、利益と税金の関係が崩れる事態が発生することがあります。すなわち、当期または翌年度以降の連結上の利益に影響を及ぼすことがあります。そこで、連結手続を行う上で、連結利益と税金の関係に影響を及ぼすようなものについては、税効果を認識した上で行うことになります。
次の例で説明しましょう。

!1) 個別財務諸表(税効果適用後)

     親会社       子会社    
税引前当期利益 1,000 400
法人税等 △550 △250
法人税等調整額 140 86
当期利益 590 236

2) 連結会社間での未実現利益

    200(親会社から子会社に販売した商品の子会社での在庫)

3) 法定実効税率
    
    41%

上の状態で連結上の税効果を無視した連結を行うと
  合算F/S    連結手続    連結F/S  
税金等調整前当期利益  1,400 △200 1,200
法人税等 △800 △800
法人税等調整額 226 226
当期利益 826 △200 626

個別では、実効税率41%に調整したはずが、連結上の利益に対する負担率が48%まで跳ね上がってしまっています。このように、税効果を考慮した連結を行わないと、実態を反映しなくなってしまうのです。

以上のように、連結財務諸表の作成にあたって税効果会計の適用対象となるものは、連結固有のて手続によって生じるものを対象とすることとなります。

■連結財務諸表作成上での税効果と一時差異

このように、税効果は連結財務諸表作成上でも発生します。連結上でも個別財務諸表で税効果について処理したのと同じように資産負債法が採用されており、一時差異について税効果が認識されます。
ただし、連結では個別と大きく異なる点があります。それは、個別決算では課税所得との関係で税効果を考えているのに対し、連結決算では課税所得との関係が直接にないため、税効果も課税計算とは関係ない項目について税効果を考えていくということです。
いずれにしても、連結上でも税効果会計の対象となる項目を一時差異と呼んでいます。
一時差異に係る税金の額は、連結貸借対照表上、繰延税金資産・繰延税金負債として計上され、連結損益計算書上、それぞれの期首期末の差額を法人税等調整額として処理することになります。したがって、連結上も「将来減算一時差異」「将来加算一時差異」も個別と同様な考え方に基づいて計上され、将来の回収可能性についても検討されなくてはなりません。

具体的には、次のような連結固有のケースについて税効果についての処理が必要になります。

1.連結グループ内で行った商品などの棚卸資産や固定資産の売買取引から生じた
 未実現利益をの消去

連結グループ内で棚卸資産や固定資産を売買した場合に、その資産が購入会社において留まっている場合には、その資産には売却会社側での利益が含まれており、その資産が連結グループ外に売却されて初めてグループとしての利益が実現します。これは、個別会社でも本店から支店に商品を売り渡しても、それは内部取引として利益は生じないことと同じです。
このような未実現利益が生じている場合には、その利益については、個別決算上では売却会社側の課税所得計算上では利益が実現してしまっているので、課税所得に含まれていることになります。したがって、課税対象となっている関係上、連結財務諸表での法人税等は、個別財務諸表上の法人税等の額を単純合算していますので、未実現利益についての税額もその中に含まれてしまっていることになります。
したがって未実現利益についての税額相当額について税効果会計を適用することにより、連結財務諸表においても法人税等の負担額を適正化できることになります。

連結財務諸表上でも税効果会計の方法は、資産負債法を原則としており、将来の税効果を考慮するという考え方です。したがって、未実現利益が発生している場合には、売却元では、個別決算上損益が実現しており課税関係は完了済みであるため、将来まで課税関係が存続している在庫保有会社である売却先で税効果を認識することになります。
この点について、「実務指針」は、売却元で発生した税金額について税効果を認識し、税率変更があっても未実現利益に関連して計上した繰延税金資産は修正しないとしています。これは、資産負債法というよりは繰延法の考え方で、従来の会計慣行の延長線上にあるものと考えられます。
また、未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額は、原則として売却元の売却年度における課税所得額を超えることはできません。これも、既に支払った税金を限度として将来に繰り延べるという繰延法を志向しているといえます。
逆に未実現損失が生じている場合の税効果額は、売却元で課税所得の計算上、未実現損失が損金処理されたことによる税金軽減額を繰延税金負債として計上し、この未実現損失の実現に応じて取り崩すこととなっています。この場合も、原則として売却元の未実現損失に係る損金を計上する課税所得を超えてはならないとされています。

・親会社から子会社への売却の場合(ダウンストリーム)

説例 1

親会社から子会社へ簿価3,000の商品を子会社(親会社が100%出資)に3,800で売却し全額在庫となっている。
その翌年に子会社は連結グループ外にその全在庫を4,200で売却した。
実効税率は、40%とする。

当年

  親会社 子会社 合  算 連結修正 連   結
税引前当期純利益 800 800 △800
法人税等 △320 △320 △320
法人税等調整額 320 320
当期純利益 480 480 480

親会社側の個別決算では、商品売買利益が計上され、これに対応する税金も確定しています。しかし、子会社側で、すべて在庫となっているため、親会社での商品売買利益が全額未実現利益となっています。この未実現利益に対応する税効果額320を、連結上の一時差異と認識して連結財務諸表上法人税等調整額に計上します。

連結仕訳

     (借)売  上  原  価    800    (貸) 商                品 800
          繰延税金資産    320          法人税等調整額 320

翌年

  親会社 子会社 合  算 連結修正 連   結
税引前当期純利益 400 400 800 1,200
法人税等 △160 △160 △160
法人税等調整額 △320 △320
当期純利益 240 240 480 720

子会社側で連結グループ外に商品を売却することにより、グループとしての利益が実現しました。前年に控除した未実現利益を実現させ、それに伴う税効果額を対応させます。
これにより、連結グループとして1,200の利益が得られ、それに対する税金が480認識されることになります。

連結仕訳(開始仕訳を含む)

(借) 連結剰余金期首残高 800 (貸) 商                品 800
繰  延  税  金  資  産 320 法人税等調整額 320

(借) 商                       品 800 (貸) 売    上    原   価  800
法 人 税 等  調 整 額 320 繰 延 税 金 資 産 320

・子会社から親会社への売却の場合(アップストリーム)

子会社が、100%子会社の場合には、ダウンストリームと同じ方法で連結消去仕訳をすればいいのですが、子会社に他に株主(少数株主)がいる場合には、少数株主持分についても税効果を認識することになります。

説例 2

子会社(親会社が80%出資)から親会社へ簿価3,000の商品を親会社に3,800で売却し全額在庫となっている。
ただし、子会社では、この取引以外で利益が2,000ある。
実効税率は、40%とする。

  親会社 子会社 合  算 連結修正 連   結
税引前当期純利益 2,800 2,800 800 2,000
法人税等 △1,120 △1,120 △1,120
法人税等調整額 320 320
少数株主持分損益 △240 △240
当期純利益 1,680 1,680 720 960

連結仕訳 

利益2,800に対する振替(2,800×20%×60%)

     (借)  少数株主利益   336  (貸) 少数株主持分 336

未実現利益の消去

     (借) 売  上  原  価    800  (貸) 商            品 800

未実現利益の少数株主持分への振替(800×20%)

     (借) 少数株主持分    160  (貸) 少数株主利益 160

税効果の認識(800×40%)

      (借) 繰延税金資産    320  (貸) 法人税等調整額 320

少数株主利益に対する税効果(800×20%×40%)

      (借)少数株主利益       64  (貸) 少数株主持分    64

少数株主持分がある場合のアップストリーム取引における未実現損益の消去方法は、未実現損益を全額消去するとともに、その負担を持分比率に応じて、親会社持分と少数株主持分に配分します。
未実現損益の消去に係る常人税等調整額は、未実現損益の消去額に応じて親会社持分と少数株主持分に配分します。
上記説例の場合、結果として子会社の税引前当期純利益に対して持分比率80%分の当期純利益が認識されています。

・未実現損益の実現のタイミング

棚卸資産のように、通常の営業循環の中にある資産は、比較的短期間に未実現利益は実現していきます。これに対し、固定資産は、その性質上実現するのに長期にわたる場合が多いでしょう。未実現損益の実現が長期間にわたることになっても、税効果を認識する必要があります。
土地のように非減価償却資産は、連結グループ外に売却されて初めて実現しますが、減価償却資産は、減価償却費相当分だけ毎期実現していくことになります。

・繰延税金資産・繰延税金負債の限度額

未実現損益の消去に係る繰延税金資産・負債の計上において注意を要するのは、売却会社側で未実現利益が課税所得に対してどのようなポジションにあるかということです。
未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額は、原則として売却元の売却年度の課税所得額を超えることはできません。
未実現利益の全額が、課税所得を構成している場合には、上記の説例のように税効果額の全額が繰延税金資産とすることができます。
課税所得が未実現利益以下の場合には、課税所得の範囲内でしか繰延税金を計上できません。
上記のダウンストリームの説例1で、親会社の課税所得が600しかない場合には、繰延税金は、240(600×40%)しか計上できないことになります。

A債権債務の相殺消去による貸倒引当金の修正

連結グループ間での債権債務が存在している場合には、相殺消去を行います。例えば、商品の販売をした会社では売掛金、購入会社側では買掛金と表示されるのが一般的です。これらの期末残高についてそのままにしておくと、債権債務が両建てで膨らんでしまうので相殺します。この債権債務の相殺消去手続自体には、何ら税効果の発生する余地はありません。この時に売掛金に対して貸倒引当金が設定されているはずですから、売掛金が消去されたことに伴って貸倒引当金が減額修正されます。この時に、貸倒引当金繰入額という損益勘定も修正されるため、ここに税効果を考慮する必要が生じるわけです。
ただ、ここで注意しなければならないのは、貸倒引当金が税務上の限度額以内なのかどうかで、税効果が異なってくるということです。

減額修正される貸倒引当金が税務上損金として認められるものである場合には、その減額修正されるべき貸倒引当金に対応する繰入額が減額される結果、連結利益が大きくなり将来加算一時差異として税金を追加するような修正を行います。この場合、適用される税率は債権者側の連結会社に適用されるものとします。
ただし、税務上損金算入される引当金であっても、法人税法に基づく繰入率や実績率を用いて計上したケースと、個別引当をしたケースで税効果の適用が異なります。
前者の場合は、翌期には洗い替えられて再度引当計算がされるため、将来加算一時差異として繰延税金負債を計上することになります。
後者の場合には、税務上無税での個別引当が容認されているということはその対象となっている債務者の財政状態が極めて悪化しているためでですから、将来税金の支払いの可能性が小さいと考えれます。このように、将来の支払いの可能性の極めて小さい将来加算一時差異に基づく繰延税金負債については、その計上をしなくてもよいことになります。したがって、この場合は、税効果を認識せず貸倒引当金のみの相殺消去を行うことになります。

説例 1

期末に親会社から子会社に対する売掛金が2,000残高となっており、これに対して貸倒引当金が160設定されている。
実効税率は40%とする。

連結仕訳

債権債務の消去 

    (借) 買   掛   金  2,000  (貸) 売掛金   2,000

引当金の修正

    (借)貸倒引当金     160   (貸) 貸倒引当金繰入   160

税効果の認識

    (借)法人税等調整額 64   (貸) 繰延税金負債   64


貸倒引当金がいわゆる有税で計上されている場合には、個別財務諸表上の課税所得の計算上では加算調整されています。したがって、個別財務諸表の作成過程の上で、その将来減算一時差異に基づく繰延税金資産が計上されているはずです。連結手続の上で、債権債務が消去されてしまうと、貸倒引当金の計上根拠が消滅してしまうので、個別財務諸表で計上していた有税引当に係る繰延税金資産を取り崩すこととなります。

説例 2

期末に親会社から子会社に対する貸付金が2,000残高となっており、これに対して貸倒引当金が無税で100、有税で1,000設定されている。
実効税率は40%とする。

債権債務の消去 

     (借) 借   入   金   2,000  (貸) 貸    付    金  2,000

引当金の修正
     
     (借)貸倒引当金    1,100  (貸) 貸倒引当金繰入 1,100

税効果の認識

     (借)法人税等調整額 40   (貸) 繰延税金負債 40

個別財務諸表上の税効果の修正

     (借)法人税等調整額 400 (貸) 繰延税金資産 400

親会社の個別財務諸表上での貸倒引当金は、無税分と有税分の合計1,100が計上されているはずです。このうち、無税分については、連結上の一時差異として認識され、連結仕訳の中で消去されます。一方、有税で貸倒引当金を設定した1,000については、個別財務諸表の上で税効果相当額400が繰延税金資産として計上されているはずです。設定根拠となった債権が消去されることに伴い、この繰延税金資産を修正する必要があります。

B子会社の資産負債の時価評価による評価差額の発生

投資と資本の相殺という資本連結手続の上で、子会社の資産負債は、子会社の有価証券取得日または支配権獲得日の時価をもって評価されます。そして、その評価差額は連結上の資本として処理されます。
例えば、子会社が含み益のある土地を保有している場合に、連結上評価増が認識されます。そして、その評価差額が将来の税金を増加させるであろうと考えられるため税効果の対象となるのです。
その土地を売却した年度には、子会社の個別損益計算書では売却益が計上されるのに対して、連結上では、既に評価増が行われているので、売却年度では売却益は認識されません。そのため、連結利益と税金との対応関係が崩れるわけです。したがって、評価差額についての税効果を認識しておく必要があるのです。
子会社資産の評価減または負債の評価増が行われた場合には、連結上の将来減算一時差異が発生し、繰延税金資産が計上されます。
例えば、子会社の棚卸資産について評価減を行った場合には、個別財務諸表上の簿価より連結上の簿価が小さくなるため、翌期以降にその棚卸資産を販売した場合には、個別より連結利益のほうが大きくなり、その分だけ連結上の法人税等が大きく計上されます。したがって、子会社の棚卸資産を評価減をした時点で評価減に対する税効果額を将来減算一時差異として認識し、繰延税金資産に計上することになります。
これと反対に、子会社資産の評価増または負債の評価減の場合には、将来加算一時差異として繰延税金負債を認識することになります。

子会社の資産・負債を時価評価する方法としては、「部分時価評価法」と「全面時価評価法」とがあります。このうちどちらを採用するかは、親会社の連結方針の中で決定され、子会社ごとに異なる方法を採用することはできません。
「部分」「全面」とは、子会社の出資比率に着目した表現で、「部分」とは、親会社持分についてのみ、時価評価による簿価修正額の計上を行うことで、「全面」は、少数株主持分についても考慮するということです。

説例

P社は、X1年度末にS社の発行済株式総数の10%を700で取得し、さらにX2年度末に60%を5,000で取得し連結子会社とした。
S社のそれぞれの年度末の資本勘定は、下記の通り。

      X1年度       X2年度
資   本   金 5,000 5,000
剰   余   金 1,000 3,000

S社は土地を保有しており、簿価は1,500でその時価は、X1年度末には1,000、X2年度末は900だった。
実効税率は、40%ととする。

【部分時価評価法】

1.評価差額と税効果額のまとめ

S社株式の取得日ごとの評価差額は、次のようにまとめることができます。

  X1       年         度 X2       年         度
時価 簿価 取得割合 評価 差額 時価 簿価 取得割合 評価差額

土  地

1,000 1,500 10% △50 900 1,500 60% △360

評価差額計上額の合計 △410
   
2.評価額についての税効果額の認識

  X1年度評価差額  X2年度評価差額 評価差額計上額
土             地 △50 △360 △410
繰延税金資産 20 144 164
差             引 △30 △216 △246

3.X1年度の資本勘定と持分

S社資本勘定 親会社持分10%
資         本         金 5,000 500
剰         余         金 1,000 100
評     価     差     額 △30 △30
                         計 5,970 570
S      社     株     式 700
差引(連結調整勘定) 130

4.X2年度末の追加出資と持分

S社資本勘定

原始取得 追加取得 少数株主持分
(10%) (60%) (30%)
資本金 5,000 500 3,000 1,500
取得時剰余金 1,000 100 600 300
取得後剰余金 2,000 200 1,200 600
評価差額 △246 △30 △216
7,754 770 4,584 2,400
S社株式 5,000
差引(連結調整勘定) 416

これらにより、連結修正仕訳は次のようになります。

土地の時価評価に係る評価差額の計上

   (借) 繰延税金資産   164  (貸) 土        地    410
          評  価  差  額   246
            (資       本)

開始仕訳

   (借) 資     本     金    5,000   (貸) S  社  株  式   5,700
          連 結 剰 余 金   2,800          少数持主持分 2,400
            (新規連結)
          連結調整勘定       546          評  価  差  額    246

X2年度末にS社株式を取得することによって、初めて連結をすることになります。このため、連結剰余金計算書の連結剰余金当期増加高の欄に「連結剰余金−新規連結」が記載されることになります。したがって、開始仕訳において取得後剰余金の持分増加200を連結上取り込むことになるので、取得後剰余金の合計3,000からこの200を差し引いた残りの2,800を消去することになります。

【全面時価評価法】

1.評価差額と税効果額のまとめ

全面時価評価法では、支配権獲得時に一気に資本連結を行うことになりますので、S社株式の取得日ごとの段階的な評価差額を必要とせず次のようにまとめることができます。
支配権獲得時(X2年度末)の評価差額は次のようになります。

  時    価 簿    価 評価差額 計上割合 評価差額計上額の合計

土     地

900 1,500 △600 100% △600

この評価差額に対して税効果を認識すると、240(600×40%)となり、税効果考慮後の評価差額は、360となります。

2.開始仕訳のためのまとめ

 

S社資本勘定

親会社持分 少数株主持分
70% 30%
資         本        金 5,000 3,500 1,500
剰         余        金 3,000 2,100 900
評    価     差     額 △360 △252 △108
                    計 7,640 5,348 2,292
S     社     株     式 5,700
差引(連結調整勘定) 352

土地の時価評価に係る評価差額の計上

    (借) 繰延税金資産 240  (貸) 土        地 600
           評  価  差  額 360
              (資     本)

開始仕訳

    (借) 資     本     金   5,000   (貸) S  社  株  式   5,700
           連 結 剰 余 金  3,000          少数持主持分  2,292
             (新規連結)
           連結調整勘定      352          評  価  差  額     360

C子会社への投資

親会社が子会社に投資を行った後、子会社で計上された損益と連結調整勘定の償却により、連結貸借対照表の投資の額が変動していきます。その結果、親会社の個別貸借対照表の子会社株式の簿価と連結貸借対照表の投資額との間に差額が生じます。
このように、投資額について個別と連結との間に差額が生じている状況で、子会社が配当した場合、親会社が子会社株式をグループ外に売却した場合、親会社が個別決算上で子会社株式に評価減を実施した場合などには、この差額が解消されることになり、親会社において税金を増減させる効果が発生します。このため、このような場合にも、税効果を考慮する必要があるわけです。

・連結調整勘定の償却

投資時における資本連結手続き上、子会社への投資額と子会社資本の親会社持分がとの間に差額が生じている場合は、その差額は連結調整勘定として連結貸借対照表の資産または負債に計上されます。この連結調整勘定の発生時においては、税効果を認識しないこととしています。

説例

資本金1,000、剰余金500の会社の株式の全額を2,000で取得し、100%子会社とした。

     (借) 資     本    金 1,000  (貸) 子会社株式 2,000
            剰     余     金    500
            連結調整勘定    500

この連結調整勘定は、原則として5年で償却されることとなっていますが、償却時には税効果を認識することとなっています。

資産の部に計上された連結調整勘定の償却

資産の部に計上された連結調整勘定が償却された場合には、投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表の簿価を下回ることになります。したがって、将来親会社が投資の売却する場合には、連結上の簿価は個別上の簿価より小さくなっているため、連結損益計算書上の売却益は、個別損益計算書上の売却益より大きくなります。

上記説例の場合で連結調整勘定の償却を5年とした場合                           

個別貸借対照表上の子会社株式の簿価 2,000
連結調整勘定償却額 100
連結貸借対照表上の子会社株式の簿価  1,900

このように、連結上の簿価が個別上の簿価より小さくなっているため、将来の売却時の連結上の税金を減少させる効果があることがわかります。
したがって、次のような税効果を認識することになります。

      (借) 繰延税金資産   59  (貸) 法人税等調整額   59

負債の部に計上された連結調整勘定の償却

資産の部に計上された場合とまったく逆のことが言えます。
したがって、この場合発生するのは、繰延税金負債ということになります。

・子会社の留保利益

子会社へ投資を行ったときは、親会社の投資の連結貸借対照表上の価額は、個別貸借対照表の簿価と一致します。しかし、投資後に発生した子会社の利益は投資の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表の簿価との間に差額を発生させることとなります。この差額は、その消滅時に次のいずれかの場合に該当すると見込まれるときには、将来加算一時差異に該当することになります。

T.親会社が在外子会社の利益を配当金として受け取るときに、親会社とその子会社の所在する国
      または地域における税率の差により追加納付 税金が発生する場合

U.親会社が国内子会社から配当金を受け取るときに、その配当金につい て税務上益金不算入
      として取り扱われない場合

V.親会社が保有する投資を第三者に売却する場合

上記のうちT.U.の配当金に関しては、追加発生すると見込まれる税金相当額を親会社の繰延税金負債と認識することになります。

説例

税率が30%の国に所在する子会社が、500の税引前利益を計上し、200の配当を受け取った。
日本の税率は、41%である。

追加納付税金の計算 

配当の基礎となる子会社の利益 205 500×41%
子会社の納付税額 150 500×30%
追加納付税金 55

(借) 法人税等調整額   55 (貸) 繰延税金負債   55

V.の将来における投資の売却によって解消する将来加算一時差異についても、繰延税金負債を計上することになります。すなわち、子会社が利益を計上することによって、連結上の投資簿価が増加し、個別上の簿価を上回ってきます。将来売却すると個別上の税金が多くなるため、この上回った分が将来加算一時差異とされ、繰延税金負債が認識されるわけです。しかし、親会社がその投資の売却を自分自身で決定することができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却をする意思がない場合には、税効果を認識しないことになります。

D連結グループの会計方針の統一を連結手続き上で行ったことによる連結 損益に対する影響

グループ内で会計方針が統一されていない場合、通常は親会社の会計処理方針に統一するための修正処理が行われます。
例えば、有価証券評価方法について親会社が低価法、子会社が原価法を採っていた場合、低価法に統一した場合に、連結手続き上子会社の保有有価証券に含み損がある場合には評価損が計上されます。このため、連結損益がその分だけ減少するのですが、一方法人税等はそのままで合算されています。そのため、損益と法人税等が対応しなくなるため、この場合にも、税効果を考慮する必要があるわけです。

■連結財務諸表での税効果に関する表示と注記

連結財務諸表の表示方法と注記方法は、個別財務諸表のそれらと殆ど異なるところはありません。

●表示上の注意点

貸借対照表上の繰延税金資産・負債の相殺表示にあたっては、同一納税主体(連結グループを構成している各個別の法人)に係るものについては純額とします。したがって、異なる納税主体のものは、総額で表示することになります。
ただし、連結納税制度が採用されている国や地域では、その連結の範囲に含まれている連結会社群が同一納税主体とします。




梅田公認会計士事務所     公認会計士・税理士  梅田 泰宏
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