個別財務諸表における税効果

税効果会計の意義

日本においては、利益に関連する金額を課税標準とする税金(法人税、住民税、事業税)は、その課税所得の発生した事業年度に負担させていました。したがって、当期の利益を基にして計算した課税所得に対して納付すべき金額を費用として認識しています。課税所得は、当期利益に調整を加えて算出します。この調整する項目の中には、将来の事業年度が負担すべき性格を持っているものが含まれているため、納付すべき金額と当期利益に対する本来の負担額との間には誤差が生じることになります。
税効果会計とは、当期利益に対して本来負担すべき金額を、納付すべき金額に調整を加え、適切に期間配分することによって算出することです。

●税金の範囲

税効果がかかる税金は、あくまで当期利益を基に算出される税金です。つまり、法人税、住民税、利益に関連する金額を課税標準とする事業税ということになります。
したがって、次のようなものは税効果の対象外ということになります。

・土地譲渡利益金額に係る税金(いわゆる土地重課)
・同族会社の留保金課税に基づく法人税
・法人税法上の税額特別控除制度
・住民税の均等割額
・収入金額を課税標準とする事業税

●税効果会計に係る税率

税効果会計では、税務調整項目のうち一時差異について、その一時差異の解消が見込まれる年度の法定実効税率を乗じて計算した税額を、期間配分することになります。法定実効税率というのは、税務会計上事業税が損金に算入される影響を考慮した税率です。
法定実効税率を算式にして示すと次のようになります。

                      法人税率×(1+住民税率)+事業税率
法定実効税率= ―――――――――――――――――
                                                1+事業税率


上記の実効税率の算式は次のように求めた結果です。
課税所得に対する合計税率は、

法人税率+法人税×住民税率+事業税率 = 法人税率×(1+住民税率)+事業税率となります。
事業税が、支払事業年度で損金に算入される関係上ため、その分の調整を加えて実効税率は、

法定実効税率=合計税率−事業税率×法定実効税率

と現されます。これを展開すると、上記の算式が得られるわけです。

ここで法定されている税率は、必ずしも標準税率である必要はありません。複数の事業所がある場合には、主な事業所(通常は本社)に適用される税率となります。

平成11年度の法定実効税率は、

                            0.3×(1+0.173)+0.096
法定実効税率 = ―――――――――――― = 0.409 
                                       1+0.096

ということになります。

法定実効税率は、当期末までに公布されている税法規定に従い、一時差異の解消が見込まれる事業年度の課税所得の計算に使用する税率です。当期末までに一時差異の解消が見込まれる事業年度の税率が確定しているならば、改正後の税率を適用するということです。また、この税率は、毎期末に見直しをして、税率改正があった場合には、繰延税金資産、繰延税金負債の再計算を行うことになります。

●一時差異

一時差異とは、「貸借対照表に計上されている資産・負債の金額」と「課税所得計算上の資産・負債の金額」の差額をいいます。「課税所得計算上の資産・負債の金額」とは、「貸借対照表に計上されている資産・負債の金額」に税務上の加減算を調整して算出されるものです。これを税務上の簿価と呼びます。一時差異とは、企業会計上の収益・費用と税務上の益金・損金との認識のタイミングのずれから生じる差異と表現することもできます。税効果会計は、このタイミングのずれについて調整を加えることなのです。
一時差異は、次のようにパターン化できます。

(1) 収益・費用の帰属年度が相違する場合
(2) 資産・負債の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上され、かつ、
    課税所得に計算に含まれていない場合の差額

(1) は、一部の例外を除き、通常は法人税申告書別表5(1) に表示されることになります。
(2) は、平成11年1月に公表されてた「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」のなかに示されている時価評価をした場合の評価差額が該当します。

●一時差異に準じるもの

一時差異ではないのですが、一時差異と同様に税効果会計が適用されるものに次のものがあります。

(1) 繰越欠損金
(2) 繰越外国税額控除

これらは、いずれも企業会計上の損益と税務上の課税所得のタイミングのずれをもたらすものです。

(1) は、一時差異ではないのですが、一時差異と同様の税効果を有しています。税務上の繰越欠損金は、その発生年度の翌年以降で繰越期間(5年)が切れるまで課税所得が生じたらその課税所得から減額できるものです。その結果、課税所得が生じた事業年度の法人税等として納付すべき額は、軽減されることになります。

(2) は、翌年以降の繰越可能な期間(3年)に発生する外国税額控除余裕額を限度として、税額を控除することができます。
このように、将来の課税所得を相殺することのできる「繰越欠損金等」についても、一時差異に準ずるものとされています。
一時差異には、「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」とがあります。

●永久差異

一時差異に対して永久差異という概念があります。これは、課税所得を計算する上で加減算の調整項目ではあるのですが、将来の年度に対する影響力を持たない項目です。

・税務上の交際費等の損金算入限度超過額
・損金不算入の罰課金
・受取配当金等の益金不算入額
などが、これらに該当します。

このように、将来の課税所得の計算上における加減算効果を持たないため、一時差異と異なり税効果会計の対象となりません。

●将来減算一時差異

将来減算一時差異は、将来の課税所得の計算上で減額効果のある一時差異です。原則として、発生時に法人税申告書別表4で加算(留保)とする一方、別表5(1)で翌年度に繰越し、その差異の解消した年度で別表4で減算します。
将来減算一時差異は、次のように類型化できます。

1.資産に係る差異

・棚卸資産の評価損
・有価証券の評価損
・貸倒引当金の繰入限度超過額
・減価償却費の限度超過額
・長期前払費用(いわゆる税務上の繰延資産)の償却限度超過額
  など

これらは、会計上は資産の償却や評価減を実施して費用・損失を認識したものの、税務上はそれらの計上額の限度や評価減が認められていないために、損金算入が翌年度以降となるものです。

2.負債に係る差異

・未払事業税
・賞与引当金の繰入限度超過額
・退職給与引当金の繰入限度超過額
・役員退職慰労金引当金
  など

これらは、会計上は費用や損失を計上するために負債を計上したものの、税務上は確定債務と認められないために未払い計上が認められなかったり、引当金の繰入に一定の限度が設けられているために、損金算入が翌年度以降となるものです。

3.特定の資産負債に関係しない差異

・一括償却資産の消耗品費処理
・新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入

これらは、会計上は費用と認識されるものの、政策的な見地から税務上その損金算入時期が定められているようなものです。
10万円以上20万円未満の小額資産について、会計上消耗品費として会計処理した場合には、税務上は3年償却とされているため、その年度においては申告調整が必要になり、翌年度以降に減算されることになります。また、新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入は、利息として外部に支払いが完了しているため、法人税申告書上は留保ではなく流出とされていますが、将来の課税所得に影響を与えるため、将来減算一時差異となります。

●将来加算一時差異

将来加算一時差異は、将来の課税所得の計算上で増額効果のある一時差異です。原則として、発生時に法人税申告書別表4で減算(留保)とする一方、別表5(1)で翌年度に繰越し、その差異の解消した年度で別表4で加算します。

将来加算一時差異には、次のようなものがあります。
・利益処分方式による固定資産の圧縮記帳
・利益処分方式による特別償却
・利益処分方式による租税特別措置法上の諸準備金

●繰延税金資産・負債の意義

一時差異等に係る法人税等の額は、それが将来に回収または支払いがされると見込まれない部分を除き、「繰延税金資産」または「繰延税金負債」として計上しなければなりません。
日本で採用された税効果会計は、国際会計基準と同じく資産負債法の上に成り立っているので、その資産性、負債性に重点が置かれています。
将来減算一時差異に対しては「繰延税金資産」が、将来加算一時差異には「繰延税金負債」が貸借対照表に計上されます。「繰延税金資産」は、法人税等の前払いと捉えられ、将来の税金の減少分を表示します。「繰延税金負債」は、未払の法人税等に相当し、将来の税金が増加することを表すわけです。
このように税効果会計が採用される場合には、「繰延税金資産」「繰延税金負債」で将来に対する税金の影響額が処理されるのですが、これらは損益計算書上では、「法人税等調整額」という勘定で処理されます。

仕訳で示すと次のようになります。

発生時 (借)繰延税金資産    XXX  (貸) 法人税等調整額 XXX
 
                法人税等調整額 XXX         繰延税金負債    XXX

このように処理された法人税等調整額は、損益計算書上は純額で表示されることになります。

解消時には、上記仕訳の反対仕訳をすることになります。

また、税率の変更がある場合には、過年度において計上された「繰延税金資産」「繰延税金負債」の金額を改正税率で修正して、その修正によって発生した差額も「法人税等調整額」に含めて処理します。

ただし、資産・負債の評価替えにより生じた評価差額が直接資本の部に計上される場合は、「繰延税金資産」「繰延税金負債」に相当する金額をその評価差額から控除して計上します。

評価替え発生時(評価損計上の場合) 

(借)繰延税金資産 XXX   (貸)有 価 証 券 XXX
      再評価積立金 XXX
       (資本の部)

評価替え発生時(評価益計上の場合) 

(借)有  価  証  券   XXX  (貸) 繰延税金負債 XXX
      再評価積立金  XXX
       (資本の部) 

税率変更による影響額は評価差額に加減して調整します。

●繰延税金資産の回収可能性の検討

将来減算一時差異が発生したといっても、すぐに「繰延税金資産」を計上できるかというとそうではありません。それは、「繰延税金資産」に計上されるべき額が本当に将来の年度で解消されるかどうか、税金負担額を減額するかどうかを十分に検討する必要があるからです。
将来減算一時差異に係る「繰延税金資産」の計上が認められるかどうか、つまりその資産性があるかどうかは、次の判断基準によることになります。

(1) 収益力に基づく課税所得の十分性
(2) タックスプランニングの存在
(3) 将来加算差異の十分性

これらの判断基準を満足した上で、「繰延税金資産」がはじめて貸借対照表に計上できるのです。
また、この判断基準は、税務上の繰越欠損金に係る「繰延税金資産」についても適用されます。
これらの要件を検討する場合には、金額的な要素ばかりでなく実現可能性や発生のタイミング等も考慮する必要があります。将来に十分な課税所得をもたらす事業計画やタックスプランニングがあったとしても、実現可能性が乏しかったり、将来減算一時差異の解消年度と時期がずれていたり、繰越欠損金の繰越期間を超えているような場合には、「繰延税金資産」の回収可能性は認められないことになってしまいます。
したがって、今まで以上に事業計画やタックスプランニングが重要となります。
また、このようにして検討された結果、将来の税金の負担額を軽減できると認められた範囲内で「繰延税金資産」が計上でき、その範囲を超えるものは計上できないことに十分注意してください.

1.収益力に基づく課税所得の十分性

将来の課税所得の発生が十分予想される場合には、その課税所得で吸収できる額まで「繰延税金資産」の計上が可能です。また、税務上の繰越欠損金が発生している場合には、その繰越期間も考慮します。
将来減算一時差異の将来の課税所得での吸収可能性の検討にあたっては、過去の実績や将来の業績予想を総合して、合理的に見積もることになります。

2.タックスプランニングの存在

「繰延税金資産」の計上要件としては、将来減算一時差異の解消年度において、また繰越欠損金が発生している場合の繰越期間内に含み資産の売却によって課税所得を発生させるようなタックスプランニングが存在することも認められています。実現可能なものであることが必要であることは言うまでもありません。

3.将来加算一時差異の十分性

将来加算一時差異が発生している場合には、その解消年度において課税所得を増加させます。将来加算一時差異と将来減算一時差異との相殺後の「繰延税金資産」は、将来加算一時差異が十分にあると認められる場合には、計上できることになります。

4.回収可能性の見直し

「繰延税金資産」計上額は、毎決算期末で見直す必要があります。この見直しの結果、回収可能性の判断要件を満たさなくなった部分については、翌期以降に繰り延べることはできず、取り崩さなければなりません。
また、逆に、過年度で未計上であった「繰延税金資産」の回収見込額を再検討した結果、判断要件を満たすことになった場合には、新たに「繰延税金資産」を計上することになります。

説例 1
将来の課税所得が十分期待できる場合

  当期 1年目 2年目 3年目 4年目
課税所得

400 500 500 600
将来減算一時差異 1,000 △300 △300 △200 △200
申告書上の課税所得

100 200 300 400
将来減算一時差異の回収可能性 1,000 300 300 200 200

この場合は、将来減算一時差異の解消額に対して、予定されている将来の課税所得からの減算が十分期待できるため、将来減算一時差異の全部に対する税金相当額について繰延税金資産を計上することができます。

説例 2
将来減算一時差異の解消額が複数期の課税所得から減算される場合

  当期 1年目 2年目 3年目 4年目
課税所得 200 200 500 600
将来減算一時差異 1,000 △300 △300 △200 △200
繰越欠損金の使用 △200
申告書上の課税所得 △100 △100 100 400
将来減算一時差異の回収可能性 1,000 300 300 200 200

この場合は、1年目、2年目が将来減算一時差異をカバーできるほどの課税所得が発生していないのですが、3年目に1年目、2年目の繰越欠損を使い切るほどの課税所得の発生が見込めています。この場合も、結果として、将来減算一時差異の全部に対する税金相当額について繰延税金資産を計上することができます。

説例 3 課税所得が十分に見込めない場合

当期 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 7年目 8年目 9年目
課税所得 100 100 100 100 100 100 100 100 100
将来減算一時差異 1,000 △300 △300 △200 △200
繰越欠損金の使用
△100
1年目
△100
1年目
△100
2年目
△100
3年目
△100
4年目
申告書上の課税所得 △200 △200 △100 △100 0 0 0 0 0
将来減算一時差異の回収可能性 900
300
(1)
200
(2)
200
(3)
200
(4)

(1)  1年目の課税所得100+5年目の100+6年目の100
(2)  2年目の100+7年目の100(2年目の欠損金 の内100は打切)
(3)  3年目の100+8年目の100
(4)  4年目の100+9年目の100
(1)〜(2)の合計 900

1年目の解消額は税務上の繰越欠損金制度を利用し1年目、5年目及び6年目の3期にわたる課税所得から減算できますが、2年目の解消額のうち100は、将来の課税所得から減算できないことが判明しているため、将来減算一時差異1,000のうち回収できるのは900ということになり、その税金相当額を繰延税金資産として計上できることになります。

■利益処分方式による租税特別措置法上の諸準備金等の処理上の注意点

●税効果相当額を控除した純額処理

諸準備金等の繰入額及び取崩額は、税効果相当額を考慮した純額で計算することになります。したがって、税効果会計を適用している場合には、今後資本の部に積み立てられる諸準備金等の額は、繰延税金負債控除後の純額を利益処分方式により積むことになるわけです。
このように貸借対照表の資本の部に計上されている残高と「繰延税金負債」の合計額が、税務上の残高と一致していなければならないわけですから、諸準備金等の残高が益金算入によって減少する場合においては、諸準備金等と「繰延税金負債」とをワンセットにして取り崩さなければなりません。諸準備金等は、利益処分により積み立てられていますので、取崩もまた利益処分によって取り崩す必要が出てきます。
従来の慣行では、一度資本の部に積み立てられてた諸準備金等は、会計上で必ずしも取り崩されていないケースも見うけられましたが、今後は税務上の益金算入額に応じて取り崩すことになります。
なお、土地等に対する圧縮積立金については、その土地等が売却などによって処分されたときに税務上の簿価が取り崩されますので、これに対応して会計上も売却等のあった年度に係る利益処分によって取り崩すことになります。

●税率変更があった場合の注意点

税率が変更された場合には、他の一時差異と同様に諸準備金等に係る「繰延税金負債」も修正しなければなりません。この修正額は、損益計算書上の法人税等調整額に含めて処理します。それと同時に、利益処分によってその修正額と同額を諸準備金等の残高に加減することが必要となります。これによって、税務上の残高と、会計上の残高を一致させることができることになります。
こうのように、税率が変更になると、従来になかった手続きをとらなければならないので、十分に注意が必要です。

●税務申告書の添付書類

諸準備金等については、純額処理ということになったので、従来どおりの課税上の特典を受けるためには、「利益処分方式による諸準備金等の種類別の明細表」を作成して、税務申告書に添付することになりました。
この明細表は、税務上はあくまで総額で計算されているため、会計上の諸準備金等と繰延税金負債の増減の動きを示し、その合計額が税務上の金額に一致していることを表すための調整表の役割を持っています。

■適用初年度における税効果会計の取り扱い

●過年度に発生した一時差異等に係る税効果相当額の取り扱い

税効果会計が適用される最初の事業年度においいて、過年度に発生した一時差異等に係る税効果相当額については、「法人税等調整額」には含めず、損益計算書の当期未処分利益の計算区分において前期繰越利益(損失)に対する調整項目として処理することになっています。
すなわち、先ず適用初年度の期首における繰延税金資産・負債を算出し、その差額について、「過年度税効果調整額」の勘定科目をもって一括して、前期繰越利益または損失に加減することになります。
なお、適用初年度の年度中に税率が変更された場合に限って、適用初年度の期首における繰延税金資産・負債の計算には、決算日現在の変更後の税率を適用することになっています。したがって、税率変更に伴う法人税等調整額の計上は不要となります。

●税効果会計適用前に利益処分方式により計上された諸準備金等に係る税効果額の処理

適用初年度において、利益処分方式により諸準備金等が資本の部に計上されれている場合には、将来課税されることになる金額が諸準備金等の金額に含まれているため、この諸準備金等に係る繰延税金負債の金額を、その諸準備金等から控除して計上するものされています。
すなわち、適用初年度の期首における繰延税金負債は、過年度の一時差異の処理よって調整され損益計算書では「過年度税効果調整額」として処理されますが、これによって取り崩した諸準備金等は損益計算書の同じ区分で「税効果会計適用に伴う○○積立金取崩高」等として計上します。
本来ならば、利益処分方式で積み立てられた諸準備金等の取り崩しについては、利益処分でおこなうべきところ、税効果会計適用初年度に限っては損益計算書で処理しますので注意してください。

●税効果会計適用に伴う長期納税引当金の取り扱い

利益処分方式の諸準備金等に対して、将来納付することとなるべき法人税等の見積額を、特定引当金(商法287条の2の引当金)として計上されている場合があります。この引当金自体は、商法上も認められているのですが、長期納税引当金の計上は、税効果会計が制度化されていない中での部分的な適用であると考えられます。したがって、税効果会計の適用によって、これを直接繰延税金負債に振り替えます。
ただし、適用税率の違いにより、一時差異に係る過年度税効果調整額がその長期納税引当金の金額と異なる場合には、その差額については「過年度税効果調整額」として処理し、当期利益には影響をさせないようにします。

■修正申告・更正決定等の取り扱い

税務調査等によって当初は認識していなかった一時差異が判明したり、当初認識していなかった差異額を修正する必要が生じる場合があります。このような場合は、結果的に一時差異の認識に誤りがあったことになり、繰延税金資産・負債に影響を与えることになります。この、一時差異の修正及び税効果額の修正は、本来過年度分の修正であるため、どの年度でどの様に処理するかが問題となります。過年度分ということで、当期分の法人税等調整額とは区別して処理する方法も考えられますが、負債資産法に立脚しているため、損益計算書上の利益と法人税を繰延法よりは厳密に捉えてはいません。これは、法人税等調整額には、税効果の純粋な当期解消分だけではなく、税率変更の影響額、回収可能性の見直し等による調整額も含まれることからもわかります。したがって、一時差異の修正が生じた場合の税効果調整額も「法人税等調整額」に含めて処理されることになりました。

■財務諸表等における税効果関係科目の表示等

●貸借対照表

繰延税金資産・負債は、その発生原因となった資産負債の属性に基づいて流動か固定かに区分されます。したがって、解消年度が短期的か長期的かによる区分ではありません。ただし、一括減価償却資産の消耗品費処理や新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入のように特定の資産または負債に関連しない繰延税金資産・負債は、翌期に一時差異が解消されると見込まれるものについては流動資産または負債とし、それ以外は投資その他の資産または固定負債とします。
これらを踏まえた上で、流動資産と負債は相殺表示し、投資その他の資産と固定負債を相殺した上で表示することになります。したがって、繰延税金資産・負債については、流動資産・流動負債のどちらか、投資その他の資産・固定負債のどちらかに表示されます。
なお、納付すべき法人税等の未払い額は、「未払法人税等」として、また、欠損金の繰戻し還付請求による未収還付額は、「未収還付法人税等」として、それぞれ繰延税金負債や繰延税金資産と区別して表示することになっています。

                                      貸  借  対  照  表
―――――――――――――――――――――――――――――――

(資産の部) |(負債の部)
     流動資産 |     流動負債
         : |        :
        繰延税金資産     ××× |        :
     固定資産 |     固定負債
        : |        :
        : |       繰延税金負債      ×××
        : |(資本の部)

●損益計算書

損益計算書の法人税等調整額は、繰延税金資産・負債の差額について、期首期末で比較した場合の増減額で表示されます。これは、「法人税、住民税及び事業税」の次に表示し当期利益に対して影響をさせます。
これには、個々の繰延税金資産・負債の増減のほか、税率変更による修正額、繰延税金資産の回収可能性の検討に基づく修正、回収可能性のないものとされていたものの回収可能性の復活による修正等、さまざまな要素を含んだものとなっています。
ただし、適用初年度だけは過年度発生一時差異に係る税効果額や既に利益処分方式によって積まれている諸準備金等に係るは、「過年度税効果調整額」として前期繰越利益を調整します。

        損  益  計  算  書

                 :
                 :
                 : 
税引前当期利益     ×××
法人税、住民税及び事業税 ×××
法人税等調整額 ××× ×××
当期純利益 ×××
前期繰越利益 ×××
過年度税効果調整額 ××× ×××
当期未処分利益 ×××

●注記

税効果適用に伴い、次の事項を注記します。

1.繰延税金資産・繰延税金負債の発生原因別の主な内訳

繰延税金資産の算定にあたり、繰延税金資産から控除された金額があるときは、この金額を併記します。

この、「繰延税金資産から控除された金額」というのは、繰延税金資産の回収可能性を検討した結果、将来課税所得を減少させ、税金負担額を減少することのできると認められる範囲」を超えるために繰延税金資産から除いた部分をいいます。この金額を併記するする場合、「評価性引当金、回収懸念額等その内容を示す適当な名称を付し、控除前の繰延税金資産合計額から一括して控除する形式によることができます。

(例)

X1年3月31日現在 X2年3月31日現在
繰延税金資産
貸倒引当金繰入限度超過額 500 700
賞与引当金繰入限度超過額  100 120
未払事業税否認額 400 500
役員退職慰労金引当金損金不算入額 900 800
その他         100         200
繰延税金資産小計 2,000 2,320
評価性引当金額      △100      △100
繰延税金資産合計 1,900 2,220
繰延税金負債
固定資産圧縮積立金         200         150
繰延税金資産(負債)の純額 1,800 2,070

           =========

           =========

2.「法定実効税率」と「税効果会計適用後の法人税等の負担額」との間に差異が
   生じているときには、その差異の原因となった主な項目別の内訳

(例)

X1年3月31日現在 X2年3月31日現在
法定実効税率  40%   40%  
(調整)
交際費等永久に損金に算入されない項目 5.5 5.1
受取配当金等永久に損金に算入されない項目 △1.0
住民税均等割額 0.5 0.5
税率変更による期末繰延税金資産の減額修正 3.3
その他         0.2         0.3
税効果会計適用後の法人税等の負担率 46.2% 48.2%
繰延税金資産合計 ========= =========

(注)税率はX2年1月1日の公布により、X2年4月1日以後開始する事業年度 から、40%に代えて37%を適用する。

この法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の5%以下であるときは、この注記を省略することができます。

3.税率の変更により繰延税金資産・負債の金額が修正されたときは、その旨と修正金額

(例)

繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に使用した法定実効税率は、前期46%、当期40%であり、当期における税率の変更により、繰延税金資産の金額(繰延税金負債の金額を控除した金額)が300減少し、当期費用計上された法人税等の金額が同額増加している。

4.決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及び影響額

(例)

平成○年3月21日の法人税法の改正に伴って法人税の税率に変更があり、翌事業年度の法定実効税率は38%ととなる。
この改正後の税率によった場合、繰延税金資産の金額(繰延税金負債の金額を控除した金額)は260だけ少なく計上されるととなり、翌事業年度の法人税等の金額は同額多く計上されることとなる。




梅田公認会計士事務所     公認会計士・税理士  梅田 泰宏
e-mail   umeda@ume-office.com