平成14年度税制改正の概要

T.連結納税制度

グループ企業をあたかも同一の企業とみなして課税所得を計算する仕組みで、親会社と同一視できる子会社(親会社の持ち株比率が100%の子会社に限る)群を含めたグループを一つの「課税単位」として課税する制度です。したがって、従来ならば一つの会社の中に事業部を設置して運営されている組織形態と、子会社化して運営している組織形態に対して税の中立性が確保されることになります。
なお、連結納税制度を適用するにあたっては、連結決算書を作成することは不要となっている。
親会社子会社の連結所得金額は、グループ内の個別会社の所得と欠損を通算して計算するので、親会社が黒字、子会社が赤字という場合には、グループ全体での納税額は少なくなるため、企業内ベンチャー創業など企業戦略を最大限に有効に機能させることが可能となります。また、連結納税制度は、企業の国際競争力の維持・強化や経済構造改革の推進に寄与することが期待されています。

1.基本的な仕組み

 (1)適用法人とその方法

  • 内国法人である親会社とその親会社に発行済株式総数の全部を直接又は間接に保有される全ての内国法人(100%子会社)とします。間接に保有されるというのは、いわゆる孫会社を意味します。

  •  親会社は、普通法人と協同組合等に、その子会社は普通法人に限られます。

  • 連結納税制度は選択適用制で、選択後は継続適用となります。

  • 申告納税は親会社が行う、各子会社は連帯納付責任を負わされ、連結所得の個別帰属等を記載した書類を税務署に提出することになります。

  • 連結事業年度は、親会社の事業年度に合わせます。

.(2)連結所得金額及び税額の計算

  •  各法人の所得金額を基礎として、これに所定の調整を加え連結所得を計算します。

  • 連結税額は、個別法人の所得を基礎にして配分します。

  • グループ内取引

    a. 取引は、通常の取引価格(時価)で行い、帳簿価額1,000万円以上の資産(固定資産、土地等、金銭債権、有価証券又は繰延資産)の移転に伴う譲渡損益については未実現損益となり、グループ外に移転したときに実現したものとして、それまで課税が繰延べられることになります。
    b. グループ内の寄付金取引は、全額が損金不算入となります。
  • 連結欠損金

    a. 連結欠損金は、5年間の繰越控除ができます。
    b. 連結納税制度の適用開始前に生じた欠損金額は、親会社の前5年以内に生じた欠損金額等 一定のものに限り、連結納税制度の下で繰越控除が可能です。
    適用を取りやめる場合や子会社が連結グループから離脱する場合には、連結欠損金額の個別帰属額を適用会社又は離脱する子会社に引き継ぐことになります。
  • 税率

親会社の種類

税率

        

普通法人(大法人)

30%

 

普通法人(中小法人)

22%

年所得800万円以下の軽減税率

協同組合等

23%

 

  (3)グループへの加入と離脱

  • 加入した場合には、連結納税制度化で申告納付を行う離脱した法人については、連結事業
    年度開始日に離脱したものとみなして、5年間は再加入が認められません。

  • この制度の適用開始又は連結グループへの加入に際しては、適用開始法人又は加入法人の資産(固定資産、土地等、金銭債権、有価証券又は繰延資産)については、直前事業年度において、時価評価にとり評価損益の計上を行うことになっています。
    これらの資産のうちその含み損益が、資本金等の1/2又は1,000万円のいずれか少ない金額未満の場合には、その計上を行う必要はありません。

  •   次の法人については、評価損益の認識は行いません。

    a.  親会社
    b.  株式移転に係る完全子会社
    c.  親会社に長期保有(5年超)されている100%子会社
    d.  親会社又は100%子会社により設立された100%子会社
    e. 適格合併に係る被合併法人が長期保有していた100%子会社でその適格合併により親会社の100%子会社となった会社
    f.  株式買取により親会社の100%子会社となった会社
    g. 株式交換に係る完全子会社

2.適用開始時期

平成14年4月に事業年度が開始する3月決算法人から適用されることになっています。

3.連結納税制度の創設に伴う財源措置

この制度が創設されることにより税収減が見込まれるため、次のような財源措置が講じられることになりました。

  (1)付加税

    選択法人に対しては、2年間の措置として2%の付加税が上乗せされます。

  (2)子会社の連結前欠損金の持ち込み制限

連結納税制度の適用開始前に生じた欠損金及び連結グループ加入前に生じた欠損金については、親会社等のものを除き繰越控除の対象外となります。

  (3)新規子会社の加入制限

最初の連結事業年度中に連結グループに加入した法人及び適用開始時の子会社のうち、一定のもの
については、連結納税制度に加入できるのは、翌事業年度からとなります。

  (4)受取配当金の益金不算入制度の見直し

   特定利子に係る措置が廃止されるとともに、不算入割合が引き下げられます。

  (5)退職給与引当金制度

退職給与引当金は廃止され、残高については4年間(中小法人及び協同組合等にあっては10年間) で取り崩すことになりました。

4.地方税

連結納税制度が導入されたとしても、法人事業税及び住民税については、地域における受益と負担との関係から、単体法人を納税単位とされました。各法人の課税標準は、連結ベースの所得金額及び税額の計算過程にておいて連結グループ内の単体法人に配分される所得金額又は税額を算定の基礎とします。
以上が連結納税制度の概要ですが、この制度に対してどのように対応するかが問題です。
この制度導入に伴い付加税や退職給与引当金が段階的に廃止されるなどの財源措置が採られている事から判るように、政府は連結納税制度を導入することにより、税収減と見込んでいます。つまり、一般的に赤字子会社を抱えている会社が多数存在しており、そういう会社はこの制度を採用すると考えているといえましょう。ただ、子会社といっても100%子会社にしか適用できませんので、持株割合について見直しをしておく必要があります。また、一度連結グループに入れたら原則として離脱できないことになります。連結グループに加入させられる子会社の選定にあたっては、まず赤字であることが絶対条件となります。なぜなら、黒字会社をグループ化すると2%の付加税がチャージされ、確実に税負担が高まるからです。

グループ加入会社は、100%子会社に限られるわけですから、赤字会社で持株割合が100%に近い会社の場合には、全株を取得してしまうことによって、親会社の税額を減少させることが可能です。
 
付加税は、今のところ当面の2年間ということになっていますが、これが延長される可能性も無きにしも非ずです。ということは、付加税制度が存続している場合に、当初赤字だった子会社が黒字化していった場合には、かえって連結しているために増税となってしまいます。このようなときには、持株を従業員等に譲渡することによって100%子会社でなくすという手法も考えられるでありましょう。  

U.中小企業支援

■法人税関系

  (1)交際費課税

交際費の支出に対して、一定の限度額を設けて損金算入を認めるという交際費課税については、資本金の規模に応じて損金算入限度額が決められていますが、今回の改正では、資本金1,000万円超5,000万円未満の法人について、従来の限度額が300万円だったのが400万円に引き上げらることになりました。

資本金規模

損金算入限度額

5000万円超

なし(従来どおり)

1,000万円超5,000万円未満

400万円

1,000万円以下

400万円(従来どおり)


この改正は、資本金規模が該当する会社にとっては、歓迎すべきものでしょう。例えば、年間500万円の交際費支出がある資本金2000万円の会社の場合、改正前であれば、損金不算入額は、260万円(500万円−300万円+300万円×20%)だったものが、180万円(500万円−400万円+400万円×20%)となり、80万円の余裕が出てくることになります。  

  (2)中小企業投資促進税制

投資促進という観点から、一定額以上の機械装置を取得した場合には30%の特別償却又は7%の税額控除、リースをした場合にはリース費用総額の60%に対して7%の税額控除をするという制度が設けられていますが、今回の改正で、取得価額要件がされました。

機械装置の取得価額の要件

従来

230万円以上

改正

160万円以上

 (3)留保金課税

同族会社の一定以上の内部留保に特別税率で一般税率とは別枠で追加的に課税する制度が設けられていますが、一定の条件にあう法人にはその課税が停止されています。今回の改正は、前年度の試験研究費及び開発費の対売上高割合が3%超の経営革新を志向する企業やベンチャー企業も対象となりました。
また、資本金1億円以下の法人は、留保金課税が5%軽減されます。

 (4)個人の青色申告制度

個人事業者で、青色申告制度を利用している者が、簡易な帳簿を記帳しこれに基づいている場合にも、青色申告控除の適用を受けていましたが、この適用期間が3年間延長されます。

通常の複式簿記に基づいて帳簿記録をつけ、それに基づいて貸借対照表、損益計算書を作成し申告書に添付している場合に限り、55万円の青色申告控除が受けられます。しかし、そこまでの帳簿ではなく、簡易簿記の方法(現金出納帳レベルのもの)で取引の記録をした場合には、貸借対照表の添付を条件に45万円の青色控除が認められています。この45万円青色控除制度は時限措置であり、今回の改正は、それを延長するものです。

■相続税関系

事業承継に係る未公開株式の評価

中小企業の事業の継続・発展を図るために、中小法人の自社株(取引所の相場のない株式)に対する相続税課税が軽減されることになりました。
もともと、所有と経営が一体化された中小企業の自社株は、換金不能という他の財産とは異なった性格を持っています。このため、従来から自社株を相続した場合にはそれが相続税に対して大きな負担となっていました。
今回の改正では、一定の条件がつけられていますが、自社株に対する相続税が10%軽減されることになりました。

                   
対象会社 相続税評価ベースで株式総額10億円未満の会社
対象株式 経営者所有株式のうち発行済株式総数の1/3以内で相続税評価額3億円以下の部分
経営上の要件 被相続人が当該会社の発行済株式等総数の50%以上を所有しており、相続人が役員として経営に参加していること

ただし、この制度は、小規模宅地の評価減の特例との選択適用ということに留意が必要です。したがって、どちらの制度を利用するかの事前の確認が重要となります。未公開の優良会社の株式を相続する場合には、一般的に評価額が高くなるので、この制度を利用することになると思われます。

V.都市再生・住宅関連税制

 1.長期譲渡所得の分離課税

現在不動産を譲渡した場合には、その所有期間に応じて分離課税される制度となっていますが、この税率の見直しが行われました。
平成15年12月31日までは、一律所得税20%、住民税6%となっていますが、その後は新しい税率となります。この税率は時限立法のため、再度延長があるかどうか分かりませんが、個人が不動産を譲渡するにはこの2年間がベストということになりそうです。

       平成16年1月1日以降の譲渡から適用

所得区分

           

国税

住民税

4,000万円まで

20%

6%

4000万円超

25%

7.5%

   2.住宅ローン控除

住宅ローンをして住宅を購入又は建築した場合には、そのローン残高に応じて税額が減額されますが、一定の増改築にもこの制度は適用されていました。今回の改正では、増改築の範囲が拡大され、地震対策となる一定の増改築も適用対象となりました。

 3.収容交換等の5,000万円控除

国等に土地等が収用されたり別の土地等と交換されることとなる場合には、5,000万円までその利益が圧縮されています。この適用要件が拡大されました。最初の買取等の申出があった日から6ヶ月超の譲渡は対象外でしたが、土地収用法の仲裁の申出が6ヶ月以内に行われていれば、その仲裁による譲渡が6ヶ月経過後でもこの制度を利用することができるようになりました。

W.金融・証券税制

 1.マル優制度

従来の老人等に対するマル優制度は、平成18年1月1日より老人等に対してではなく、身体障害者手帳の交付を受けている者、遺族基礎年金受給者である被保険者の妻、寡婦年金受給者等に対する者という形に変わることになりました。

 2.上場株式等の申告分離課税

平成15年1月より、従来の源泉分離課税制度は廃止され、申告分離課税1本かされることになっていますが、一般個人投資家の事務負担の軽減に配慮するために特例が設けらることになりました。
証券会社に一定の要件を満たす特定口座を開設し、この口座を通じて取得し管理されている株式を譲渡する場合には、証券会社が顧客の株式譲渡益を計算し、税額の徴収と納税を代行し、個人は確定申告が不要になります。

 3.ストックオプション制度

ストックオプションとは、業績(株価)連動型インセンティブ報酬の一つであり、会社が自己の株式をあらかじめ定めた価格(権利行使価格)で一定期間(権利行使期間)内に購入できる権利を付与することです。付与された者にとっては、権利行使価格より株価が上昇している場合には権利を行使し、自社株を取得し売却することによってキャピタルゲインを得ることができます。
今回、平成14年4月から施行される改正商法に伴い、税制面でも改正が行われることになりました。
改正商法では、付与対象者制限(自社の取締役と使用人のみ)と、付与対象枠(発行済み株式総数の10%以内)が撤廃されており、この趣旨を生かすためには税制の改正が必要でした。

今回の税法改正では、
@適格対象者
自社の役職員のみではなく自社及び50%超グループ会社の役職員に拡大
A権利行使価格限度額
従来の年間1,000万円から1,200万円に拡大
されることになりました。

税制適格ストックオプションは、株式売却時まで課税が繰延べられまた株式譲渡所得課税となりますが、上記の条件に該当しない場合には、現行税制では権利行使時(株式購入時でなんらキャッシュは増加していない)に給与所得として課税されてしいますので、その利用については十分注意が必要です。

なお、現在ストックオプションを巡っては、課税当局と係争中の案件が出ています。すなわち、税制適格外のストックオプションで、親会社の株式を付与されている場合に、多額のストックオプションの権利行使をした時の所得は、果たして給与所得といえるのかどうかということです。これは、一時所得ではないかということで争われているのですが、一時所得と給与所得では税額が大きく変わるためです。今後が注目されるところです。




梅田公認会計士事務所     公認会計士・税理士  梅田 泰宏
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