日本の新しい会計制度

日本に新しい会計制度が導入されようとしています。
連結制度のように、一部は既に施行されているものもあります。
新しい制度の導入の背景を探ってみます。

1.金融ビッグバンと会計制度
背景
バブル崩壊後、日本の金融機関は不良債権処理を先送りしてきました。
行政当局も護送船団方式を改めず、金融業界は横並び体質と規制に守られた
ぬるま湯体質を長らく維持してきました。
しかしながら、こうしたわが国の金融・証券市場の規制性、不透明性、裁量行政などが様々な形でその矛盾を露呈し、その結果東京市場は海外から見放され低迷するようになりました。
こうして日本の金融制度が追い詰められていく中、日本版ビッグバンといわれる金融システムの改革が叫ばれるようになったのです。

全体像
1996年11月に橋本内閣のもとで公表された
「わが国金融システムの改革−2001年東京市場の再生に向けて」
においてビッグバン構想は明らかにされました。

(1) FREE(市場原理が働く自由な市場)
(2) FAIR(透明で信頼できる市場)、
(3) GLOVAL(国際的で時代を先取りする市場)

を、大きな柱として金融面で大幅な規制緩和・自由化を推進して、低迷している東京市場をニューヨークやロンドン市場に匹敵する国際市場に再生することが、その大きなねらいとされました。
改革は金融・証券市場の活性化を中核とするものですが、投資対象商品、市場、仲介者の整備とともに企業会計・ディスクロージャー制度の整備も課題とされました。

会計制度改革
商品、市場、仲介者にかかわる規制を極力排して作られる市場においては、市場参加者には自己責任の原則が求められます。
このためには投資家が的確な判断を下せるよう透明性の高い、わかりやすい企業情報の開示が不可欠となります。資本市場活性化のためには、国内のみならず海外の投資家にも日本企業の姿を正しく判断してもらえる情報開示を行わなければなりません。
これまでのわが国の会計基準を国際的にも通用するように見直し、変革することが迫られるようになったのです。そこで、わが国の会計基準を決める大蔵省企業会計審議会は、わが国の会計基準の国際的調和を図るために、ここ数年の間に新たな会計基準を矢継ぎ早に公表してきました。
これが会計ビッグバンといわれるものです。

2. グローバルスタンダード時代における会計
企業活動のグローバル化
商品、サービス、情報の生産、移動、消費はボーダレス化する一方であり、投資活動や企業の資金調達活動もグローバル化してきています。いまや企業は全世界規模で、最も効率的な活動を選択しようとしています。コンピュータや通信技術の進歩が、これにさらに拍車をかけています。

グローバルスタンダード時代の到来
こうしたグローバルな活動は、様々な分野でグローバルスタンダードを必要とするようになります。企業会計の世界も例外ではありません。
現在の世界各国の会計制度や会計基準は国によって異なるところがあります。
同様の企業活動が行われたとしても、利益の計算や財産を評価する方法が国によって異なれば、その結果としての利益や財産額も当然のことながら異なってきます。これでは、各国の企業の評価を容易に行うことは出来ません。
そこで、企業会計の世界でも経済制度や慣行が相違する各国の企業を評価する際の共通基準として、グローバル・スタンダードへの期待は大きくなってきました。

グローバル・スタンダードへの調和
世界各国はそれぞれの国の会計基準を既にもっていますが、ここにグローバル・スタンダードとなる会計基準が加わると、ダブル・スタンダードの問題が生じます。
自国の会計基準が国際標準となる会計基準とあまりにも乖離していると、その国の会計制度そのものが信用を失いかねません。また、その乖離が大きいと企業にとっても国内市場用と海外市場用の二つの財務諸表を作成するための負担が大きくなります。
そこで、世界各国は自国の会計基準を国際的に通用するものにし、グローバル・スタンダードとの調和を図る努力をしています。

3. 脚光を浴びる国際会計基準
グローバルスタンダードたりうる会計基準とは
政治、経済、法律制度や経営慣行が異なる各国の企業が準拠すべき単一の会計基準すなわちグローバルスタンダードといえる会計基準は現在のところ確立されてはいません。
しかし、グローバルスタンダードに近いといえるものは存在しています。
国際会計基準と米国会計基準がそれです。

国際会計基準とアメリカ会計基準
国際会計基準は百ヶ国を越える加盟国の団体で構成される国際会計基準委員会が生み出したものです。多数の合意と認知があります。
一方、米国会計基準は米国の会計基準設定機関である財務会計基準審議会(FASB)が作成しています。FASBは基準書設定のために膨大な人的資源と時間を投入しており、その努力と費用を国単位でみた場合には断然世界一です。その結果、米国会計基準は世界で最も厳格で権威ある基準といえます。

アメリカの動向
米国は、自国の会計基準が世界で最も厳格で高品質なものであり、いまさら国際会計基準を採用する必要はないという認識から、当初は国際会計基準の導入には消極的でした。
しかしながら、厳格であるがゆえに国際的企業は米国基準を避けて、他の市場で資金調達をする動きが出てきました。そこで、米国も国際統一基準の必要性を認め、国際会計基準を支持するようになりました。 

IOSCOの国際会計基準支持
国際会計基準委員会は民間団体であり何ら強制力を持っていません。そこで国際会計基準が設定されたといっても、それが国際基準となるという保証はありません。
しかしながら、こうした状況は証券監督者国際機構(IOSCO)が1988年に国際会計基準委員会の活動を支持表明したことで一変しました。IOSCOは各国の証券市場を監督している組織による国際機関であり、わが国からは大蔵省金融企画局が参加しています。
各国の参加組織はいずれも強力な権限を持った政府の機関ですから、その支持表明は国際会計基準に実質的な拘束力を付与する可能性を示唆することになりました。
これによって国際会計基準のステータスは一挙に高まったのです。 

4. 国際会計基準とは
国際会計基準の性格
国際会計基準委員会によってこれまでに39の国際会計基準が公表されてきました。
国際会計基準委員会は1973年に設立された世界各国の職業会計士団体をメンバーとする民間の国際組織です。
その組織の性格からして、国際会計基準には法的強制力はありません。従って、国際会計基準を採用しない企業が罰せられることもありません。
しかしながら、国際的に通用する会計基準であるため国際社会で活動する企業はこれを採用しないと国際的信用を得ることができなくなる恐れがあります。

国際会計基準の目的
国際会計基準は、クロス・ボーダー(国境を越える)での公募の証券発行に際して用いる財務諸表作成の国際基準となることを期待されています。
今後、証券監督者国際機構(IOSCO)が国際会計基準を承認したならば、国際会計基準で作成する財務諸表によって世界中で資金調達ができるようになる可能性があります。
但し、各国企業が自国で資金調達する際の開示基準として、国際会計基準を採用するかどうかは各国が決めることになります。もともと、国際会計基準委員会の趣意書では「国際会計基準は、財務諸表の作成に関する各国の国際規定にとって代わるものではない」と明言しています。

日本企業への影響
国際会計基準がIOSCOで承認されたならば、IOSCOの会員である大蔵省も、国際会計基準を受け入れることが予想されます。
これによって外国企業が日本市場で資金調達する際には、国際会計基準に基づく財務諸表を受け入れることが予想されます。同様に、日本企業が外国市場で資金調達を行う際には、国際会計基準による財務諸表が受け入れられることが予想されます。
現在のところ、国際会計基準による財務諸表を作成している日本企業は数社に過ぎませんが、こうした流れになれば国際会計基準採用企業は増えることになるでしょう。

5. 国際会計基準の役割
財務諸表の国際間比較
各国の企業が各国ごとに異なった会計基準で財務諸表を作成している限りは、投資アナリストや投資家が国際間の企業分析を行うのには大変な手間と時間を要することになります。
国際会計基準という世界共通のものさしで財務諸表が作成されることになれば、こうした問題はなくなり、財務諸表の国際間比較が容易になります。

財務諸表の統一
海外に子会社を持つ企業は、連結決算に際して、それぞれの国の会計基準に基づいて作成された財務諸表を、親会社が適用している会計基準に基づく財務諸表に作り直したうえで、連結財務諸表を作成しています。
また、海外の証券取引所に上場している企業は、自国の会計基準で作成された財務諸表を当該国の会計基準に合わせて作成し直さなければなりません。
国際会計基準がグローバル・スタンダードになれば、財務諸表は世界共通の基準で作成されるわけですからこうしたことがなくなる可能性があります。

企業信用度の増大
国際会計基準に従って財務諸表を作成している企業は、国際的に通用する財務諸表を作成することになるため、企業の信頼性は確保されることになります。逆にいうと、国際会計基準とは異なる会計基準でしか財務諸表を作成していない会社は、国際的には信用されないことになります。
かつてジャパンプレミアムといった言葉をよく聞きました。これは海外の銀行が日本企業に対する貸付金利を他国企業よりも高くするというものですが、日本の会計基準で作成される財務諸表が信用されていないことの表われです。日本企業のディスクロージャーが大幅に改善されないと、今後もジャパンプレミアムの問題が再発しないとも限りません。
国際社会で信用力を高めるためには、今後は国際会計基準による財務諸表の作成が不可欠になる可能性があります。これによって国際的な資金調達も容易になることでしょう。

6. 国際会計基準と日本の新会計基準
国際会計基準導入の必要性
わが国では会計基準の国際調和を急いでいますが、この背景にはわが国企業のディスクロージャーの信頼性が国際的な市場で極めて厳しく評価されている事実を指摘しなければなりません。この評価はジャパンプレミアムとして、日本企業の海外金融市場での借入金利に反映されてきました。
わが国企業のディスクロージャーに対する信頼性の欠如は、その基礎となっているわが国の会計制度そのものに対する国際市場の不信感の表明といえます。
これに対処するためにわが国の会計基準を改革する新会計基準が1999年から2001年にかけて次々と導入されていきます。
新会計基準は国際会計基準への調和を図るものですが、国際会計基準の全面的導入までには至っていません。

新会計基準のポイント
39の国際会計基準全てを日本の会計基準に反映しようというわけではありませんが、主要なものについては調和を図るべく、新会計基準が誕生しました。その主要な内容は以下のとおりです。

1) 連結決算中心主義への移行
 「連結財務諸表原則」(平成9年6月6日企業会計審議会公表)により、平成11年4月1日以降開始する事業年度から連結決算中心となります。

2) 税効果会計の導入

「税効果会計に係わる会計基準」(平成10年10月30日企業会計審議会公表)により、基本的には平成11年4月1日以降開始する事業年度から税効果会計が適用されます。

3) 時価会計の導入
「金融商品に係わる会計基準」(平成11年1月22日企業会計審議会公表)により、主として平成12年4月1日以降開始する事業年度から金融商品について時価主義に移行します。

4) 年金会計の導入
「退職給付に係わる会計基準」(平成10年8月22日企業会計審議会公表)により、主として平成12年4月1日以降開始する事業年度より退職給付会計が導入されます。




梅田公認会計士事務所     公認会計士・税理士  梅田 泰宏
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