書
名 |
原
題 |
作
者 |
夜のフロスト |
Night Frost
|
R・D・ウィングフィールド |
魔術はささやく |
− |
宮部 みゆき |
奇跡の人 |
- |
真保 裕一 |
半身 |
Affinity |
サラ・ウォーターズ |
奪取 |
− |
真保 裕一 |
かまいたち |
− |
宮部 みゆき |
GOTH |
− |
乙 一 |
荊の城 |
Fingersmith |
サラ・ ウォーターズ |
柔らかな頬 |
− |
桐野夏生 |
淋しい狩人 |
− |
宮部 みゆき |
防壁 |
− |
真保 裕一 |
「夜のフロスト」
なんとも下品なジョークを飛ばしだらしない格好の警部だが、事件解決能力は天下一品。
シリーズ三作目の本作品は、連続老女殺人事件。その間に別件の事件も絡み合って、デントン署は大忙し。痛快に読めました。
「魔術はささやく」
宮部の日本推理サスペンス大賞を受賞した作品。
タイトルの「魔術」は読んでのお楽しみだが、松岡敬祐の作品に通じるものがあるといったら、ネタばれか。(^^)
「奇跡の人」
ホワイトアウトで有名になったというか、知った真保裕一の事故で過去の記憶を失った少年の自分探しがテーマ。ミステリーというより、人間ドラマが中心か。記憶を失うということはなんとつらいことか。自分にとっても周囲の人間にとっても。
「半身」
「このミス」では、高い評価を得ていた作品。本国でも新進気鋭の作家として評価されているよう。 19世紀後半のイギリスを舞台にした小説ということで、時代背景も解らないまま読むというのは、つらいことでもあります。
刑務所に囚われている霊媒師と貴婦人との交流ということが中心ですが、自分の読解力のなさか、今ひとつ消化不良。
「奪取」
偽札を作るのは不可能に近いと思われるテーマを扱っています。だからこそ、面白いのかもしれません。だましだまされて、二転三転する軽快な物語展開はスピード感があり。テーマがテーマだけにある意味、現実離れした展開が良かったのでしょうか。
偽札は、「だます」ということで、人間もさることながら、機械もだますことが出来ます。
だますということであれば、映画「スティング」が最高に面白かったが、同じようにこの作品もスピード感があり、面白く読めました。ラストは、頭の中でラグタイムピアノで「エンタテイメントのテーマ」が流れて、ニヤリ。
ただ、人物像が少し軽くないかなぁ。コミカルタッチだからよしとしよう。
「かまいたち」
宮部みゆきの短編集
時代小説の中短編を4作収録。表題作は、題名からも推測できるけれど辻斬りがテーマとなっています。
さる大家の侍が辻斬りをするというのは、よくある話のような気がします。こういうのはドラマにもなっていると思います。
「師走の客」は、年末に毎年訪れる泊り客の土産物を楽しみにしている宿屋家族に降りかかる災難。欲に目がくらむとしっぺ返しがあるということかな。
「師走の客」は、落語の落ちのように終結します。
「迷い鳩」「騒ぐ刀」は超能力というのか見えないものが見えるという力を持った娘を主人公にした連作。
女には不思議な力があるといわれても、説得力があります。
「GOTH」
私の読書暦では今までにない、毛色の変わったものを読んでみました。
表紙のごとく暗い作品です。高校生の男女が主人公ですが、若者の暗黒面を描いているのでしょうか。
「荊の城」
このミス05年版トップ作品であり、日本では、前作「半身」に続いて紹介された作品。
舞台は、これもやはり19世紀中頃のロンドンとなっています。ホラー的な要素はないものの、邦題から解るように、大きな城が舞台となる点で、ゴシック小説と呼んでいいのかもしれません。
中心となるのは、下町でスリとして育ってきた少女と城で令嬢として育った少女です。あまりに有名な「王子と乞食」(今は、この言葉は使ってはいけなかったのかな)のように対極的な図式です。この構図を基に話が展開していくのですが、そこに一ひねりをしているところに、この本の面白さがあります。令嬢の相続する財産を奪い取ろうとする詐欺師と組んで、仕掛けをするのですが、そこからが面白い。
舞台は古めかしいが、単なる泥棒の小説ではなく、後半にある冒険的要素も盛り込まれた、あきさせない作品。
時代背景なんかが解ると、もっと面白く読めるかもしれません。
大団円は、ちょっと気に入らないなぁ。
「柔らかな頬」直木賞受賞作
母と子、夫と妻、男と女、そんな人間関係が描かれています。北の大地という語感が持つ灰色の環境の中で繰り広げられる凄まじい人間ドラマ。
でも、どんな夫婦だって、トラブルを抱えることがあります。どうやって乗り切るか、乗り切るべきなのか、別の出口を見つけるのか。正面から対峙するのか、逃避するのか。
こういうストーリーは、小説の中だけにしたいと思いました。
とてもずしりと堪える小説でした。
「淋しい狩人」
古本屋を経営しているイワさんとその孫を中心軸に置いた短編集。主人公はイワさんであるが、その周囲で起きる出来事をミステリーを絡めて物語っている。
今は、核家族化が進んでしまっているが、祖父母と孫という関係は、一般的な家庭では当たり前であった。自分自身も、家が商売をやっていたので、父母が忙しいときは祖母に面倒見てもらったように記憶している。なにより、夕食を家族でそろって食べた記憶があまりない。TVドラマでは、一家団欒で夕食の場面が出てくるが、縁のないことであった。その影響か、現在の我が家でも一家揃っての食事はまずない。
我が家は、二世帯住宅のため、かろうじて祖父母と孫当図式は保たれているが、「淋しい狩人」に描かれている人間関係は、うらやましくもある。
このような、人間関係の中で育つというのが、本当はどんな教育より大切なのかもしれない。
「防壁」
公務員を主人公にした短編が4編収録されている。公務員というと、事務方をすぐ思い浮かべてしまうが、こちらは現場の第一線で活躍している公務員。表題作の「防壁」は警視庁警護課員(いわゆるSP)、「相棒」は海上保安庁特殊救難隊員(最近では海猿でクローズアップされているが)、「昔日」は自衛隊不発弾処理隊員、「余炎」は消防士と、人命にかかわる職種についている人間が主人公となっている。これらの人間模様、特に主人公にまつわる女性関係が描かれているのであるが、主人公を英雄的な描き方をしていないところに、また、読み応えがある。1粒で4回美味しい短編集だ。
2005年8月に読んだ本
書
名 |
原
題 |
作
者 |
クリスマスに少女は還る
|
Judas Child
|
キャロル・オコンネル |
震度0 |
− |
横山 秀夫 |
生首に聞いてみろ |
− |
法月 綸太郎 |
ダ・ヴィンチ・コード |
Da vinci Code |
ダン・ブラウン |
凍える牙 |
− |
乃南 アサ |
「クリスマスに少女は還る」
原題が、「Judas Child」。解説者によると「囮の子」という意味とのことである。クリスマスの数日前に二人の少女が失踪する。という、本書の裏表紙の紹介文を読めば、二人の少女のうち一人は囮であるということが判るのであるが、邦題からは、あぁ、クリスマスの日に少女は生還するのかと、推測されるのではある。ただ、敢えてこの「還る」という題名にしたのは、ラストになって判るのであるので、この辺はよく考えられて付けられた題名と思う。
少女の側から、捜索する側から物語が展開するのであるが、登場人物が多彩のため、しっかり読んでいないと判らなくなってしまう。これは、翻訳モノを読む場合によく陥ってしまうのであるが。
よく考えられたプロットを持ったミステリーである。
「震度0」
ある地方都市県警本部内での2日間の出来事を、そこに関わる人間模様を各人の視点で時系列的に追いかけていく。「半落ち」のような手法をとっているが、もっと凝縮されている。阪神淡路大震災発生時に起こった事件を、自然災害の現実に揺れた激震「震度7」に対比させて、実際には揺れていないが、激震が走った警察内部ということで「0」である。官僚の野心と保身。キャリアとノンキャリア。男と女。白と黒。
あまり私には縁のない社会だが、官僚機構の中は、どこも似たような構図があるということは想像に難くない。この本を、当の官僚たちはどう読むのか。
「生首に聞いてみろ」
05年このミス第1位獲得作品。題名からして、殺人が起きて生首が切り取られるということは、容易に想像できる。つまり、題名からして大筋は読者には既に予想がついているのである。しかし、本格ミステリである。一ひねりも二ひねりもしてある。まず、題名にある生首は、一向に出てこない。登場するのは、塑像の首が切り取られるという事件で幕が開く。後は読んでのお楽しみである。20数年経って、妻に出産時の事を聞いてみた。当時は、切開する病院とない病院があるとのこと。妻のかかった病院は、しないと言うことである。だから、その病院を選んだとのこと。男は知らない世界である。
「ダヴィンチコード」
読んでみると、ベストセラーになった訳がよく解る。売れる本のエッセンスがぎっしり詰まっている。ベースは、冒険小説といっていいだろうが、そこに謎解きの面白さも加わって、呼んでいて飽きさせない。後半、ちょっとだれる部分もあるが、全体を通してスピード感にあふれていて、ぐいぐい読ませる。女と男が出てくる冒険といえば、インディ・ジョーンズを思い浮かべるが、舞台と人物設定の違いがあるものの、多くの共通項を持っているように思う。また、アクションということではないが、スターウォーズエピソード6を思い出してしまったのは、私ばかりではないだろう。トム・ハンクス、ジャン・レノで映画化も決定しているということであるが、映像化をどうやっていくか楽しみなところである。でも、トム・ハンクス〜ゥ?
「凍える牙」
ファミレスに来店したお客が突然燃え上がる。というと、スティーブン・キングのファイアースターターばりのホラー小説と思いきや、これは伏線であって、物語は大型犬であるオオカミイヌが起こしている連続咬殺事件を中心に展開する。主人公は、元白バイ乗りの女性刑事。中年の刑事とコンビを組むのだが、男社会での女性の位置づけの難しさも、語られている。警察内部での、女性の立場はまだまだと納得できるものがある。バイク乗りというのが、組織の中での孤独感を象徴するようなところがある。CB400SFを駆って犬を追いかける。追いつかないというのも、不思議な気もするが、それはそれとして。また、愛車は、XJR1200という形で描かれているが、現在は既に1300にモデルチェンジしているので、今となってはちょっと前の時代ということになる。
直木賞受賞作で、ラストまで飽きさせない。
2005年9月に読んだ本
書
名 |
原
題 |
作
者 |
密告 |
− |
新保 裕一 |
終戦のローレライ |
− |
福井 晴敏 |
「密告」
真保の「小役人」シリーズと言われている役人を主人公としているものの仲の一冊。この物語の主人公は、県警の市中警察署生活安全課勤務の警察官。「小役人」というとあまりいい響きはしないが、ノンキャリと言い換えても、こちらもあまり良い感じはしない。いずれにしても、警察官が警察内部での不祥事を密告するということが中心テーマであるが、過去に密告をしたことが現在も尾を引いており、再び密告者として警察内部から嫌疑をかけられる。ある意味で、密告制度というのは必要なのであろうが、組織の論理としては密告者は許しがたい裏切り者ということになる。しかし、社会構造の改革は、しばしば密告によって表に出てくることがあり、表舞台への担ぎ上げは新聞や雑誌などのメディアであろう。したがって、メディアはその権利と責任を全うすることが要求される。この小説は、密告者を中心に展開していくが、警察と業者の癒着構造や不当とも思える過剰逮捕、オリンピック競技者の心の葛藤、男女の感情のヒダなど、盛りだくさんで最後まで飽きさせず読ませてくれた。
「終戦のローレライ」
超大作である。宮部の「模倣犯」、高村の「レディジョーカー」と肩を並べるくらいのもの。後から読み始めた別の文庫作品のほうが先に読み終えてしまった。でも、サイドストーリーとかが、いっぱい詰まっている感じで最後まで飽きさせない。終戦間近における新兵器「ローレライ」を搭載した潜水艦の物語。潜水艦そのもの活躍とかよりは、人間模様に面白さがある。また、太平洋戦争の歴史も垣間見ることができる。映画化を前提に作られているというが(もっとも既に公開されてしまっているのだが)、なるほどと思わせる。
「ローレライ」システムそのものの設定は、SFじみているが、それはそれでよしとしよう。潜水艦乗りという男中心の話だけにはしないという作者の(これも映画を意識してのことと思うが)意気込みが現れていると思う。潜水艦をメインした作品は、古くは漫画の「サブマリン707」「青の6号」、映画化された「レッドオクトーバー」「Uボート」、映画の「U−571」など優れた作品が多い。小さい頃は、サブマリン707にずいぶん心躍らされたものである。プラモデルも何度も買いなおした記憶がある。
この作品も潜水艦を扱った秀作の一つに数えられるだろう。
2005年10月に読んだ本
書
名 |
原
題 |
作
者 |
蒲生邸事件 |
− |
宮部 みゆき |
愚か者死すべし |
− |
原 ォ |
第三の時効 |
− |
横山 秀夫 |
さまよう刃 |
− |
東野 圭吾 |
「蒲生邸事件」
宮部は、理由や模倣犯のような社会派小説も良いが、こういうSFっぽい小説もいい。なんたってストーリーがいい。2・26事件当時にタイムスリップした主人公が、蒲生邸で起きた事件に巻き込まれる。そこで出会った人間。その触れ合い。ここで描かれる人間は、自分の親の世代であり、昭和を生き抜いてきた人たち。男は男らしく、女は女らしくという表現が良いかどうか判らないが、それぞれの職分をわきまえて生きている。本の表紙にある「ふき」の姿は、ほんとにホロリとさせられる。
「愚か者死すべし」
探偵沢崎の第2シーズンの幕開き。変わらずのハードボイルドタッチ。誘拐事件に巻き込まれ、警官射殺事件に巻き込まれる。大きな仕事をしても、その報酬は自分の尺度で決めている以上物ものは受け取らない。こういう男っぽいのは好きなのであるが、この作品にはちょっと輝きがないように思う。ストーリーの厚みがないというか、もう少し掘り下げてもらいたかった。隠れ家を見張る引きこもりの青年のエピソードが印象に残るが、こういうちょっとしたところが印象に残るというのもいかがなものか。とはいっても、こういう小さいエピソードが好きなんだが。
「第三の時効」
警察小説の横山と言うことが定着したようだ。震度ゼロを先に読んだが、これは雑誌に掲載された短編小説集。短編だけに警察の凄みが凝縮されている。凄みは、犯人対するもの、内部組織に対するものに向けられている。登場するのは、F県警本部の捜査1課の1係から3係。それぞれの係長、本の中では班長となっている。
本の帯に、「犯人か。刑事か。追われているのはどっちだ。」とあるのは、全編を通してのものではなく、「沈黙のアリバイ」に向けられている。取調べ中の犯人に嵌められそうになる刑事。人間は、こうも狡猾になるものか。
「第三の時効」は、タイトルそのものであるが、あっと驚く結末。プロットが見事。
「密室の抜け穴」は、犯人はどうやって密室から抜けたのか、これもいい。
「モノクロームの反転」は、白か黒か。
その他「囚人のジレンマ」「ペルソナの微笑」も、凄みが効いている。警察に捕まったら、本当に怖いところだと思ってしまう。
「さまよう刃」
誰かがこのテーマを取り上げて小説を書くと思っていた。
少年犯罪と少年法。加害者の保護と被害者のやりきれない思い。読者に突きつけられた大変重い判断。
ストーリーは、不良少年たちに蹂躙され殺された一人娘を復讐のために、父は仲間の一人を激情に刈られて殺す。その場にいたら誰もその行為を悪いとはいえないであろう、そういう中でのとっさの殺意。その後、もう一人を殺害するために逃亡を追う。追う警察。その中にも父親のとった行動を、是とするか否とするか意見が交錯する。マスコミも取り上げられることになり、社会全体に問題を投げかける。マスコミの対応をさらりと流しているように思うが、これは実際にはもっとセンセーショナルな取り上げられ方をするのではないだろうか。所謂復讐劇は、格好の題材である。ただ、小説の流れとしては、あくまで主人公にフォーカスしていて、読んでいてぶれがない分没頭できる。かかわりの出来た人間も、心に傷を負っている。主人公にその傷の埋め合わせや今の自分の忸怩たる思いを重ねるのであろうか。単行本360ページ、一気に読める。東野「秘密」に続く娘をお持ちの父親必読の書か。
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